小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
どうってことない。
こんなのどうってことない。
アイチがされてきたことに比べれば。
手の届くところから次々と怪文書をはがしにかかる。
絶対負けない。
こんなのがなんだ。
どうってことない。
ぐっと唇を噛み締めた時、ポケットの中のケータイが鳴った。
こんな時に誰だ、と思いながらもケータイを取り出し、画面を確認する。
そこに表示されていたのは「アイチ」の文字だった。
一瞬にして気が引き締まる。
出るのをやめようかとも考えた。
けれど、こっちに来られるようなことがあれば、この状況がバレてしまう。
一呼吸置いてから、通話ボタンを押す。
「真海子!?今、どこ!?」
あたしが返事をするより早く、アイチの必死な声が聞こえてきた。
走っているのか、息が切れている。
「今?家だけど。どうしたの?」
落ち着いたいつもの声を意識して、そう嘘をついた。
それでも電話の向こうの彼女から必死な様子は消えない。
「ちょっと待って、そこ動かないで!」
「え!?」
「いいから!あたしが行くまで絶対に動かないで!」