小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


「え!?ちょっと困るっ…」


電話は一方的に切れた。


まずい。


彼女が来る前にすべてをはがし終わらないと。


あたしはドアに飛び付くようにして、怪文書をはがして行った。


すべてがキレイにはがれなくても、とりあえず文字のところだけがはがれていればいい。


早く。


アイチが来る前に早く。


目立つところから素早く破るようにはがして行く。


慌ただしい足音が遠くの方に聞こえたのは、まだ半分もはがし終わらないうちだった。


息を切らせながら、とにかくはがすことだけに集中する。


早く、早く、早く。


それが今、あたしにできるアイチを守る方法。


唯一の守る方法。



けれど、思いのほか、早く近付いてきた足音は、あたしの後ろで止まった。


振り返れば、ただその場に立ち尽くすアイチの姿。


彼女の目はしっかりと貼られた怪文書を捕らえていた。


その表情がみるみるうちに変わっていく。


悲しみ、怒り、悔しさ、そのすべてが混ざり合ったような顔で唇を噛み締めたアイチは、あたしが何か言う前に次々と怪文書をはがしにかかった。



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