小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「お疲れーっ!」
合い鍵でリビングに入ってきたアイチは、昨日の出来事が嘘だったかのように元気だった。
けれど、午後8時なんて言う時間帯に「行っていい?」なんて連絡してくる辺り、何か話があるんだろうなぁとは覚悟していた。
アイチは、キッチンで鍋の中のカレーをかき回していたあたしの横に来ると、中身を覗いて、「うわー、おいしそ~」なんて子どもみたいに嬉しそうな顔をする。
「これからご飯だから食べてく?」
そう誘ってみると、彼女は一瞬、迷ったような顔をしてから、「千津ちゃん家で食べて来たから大丈夫」とソファに座った。
丁度、テレビでは動物番組が犬特集を放送していて、彼女は案の上、すぐにそれに釘付けになる。
そんな彼女から視線を鍋に戻すと、底が焦げ付かないようにかき回しながら、温まるのを待った。
昨日、アイチは自分が変な意地を張ったせいで、あたしにまで被害が行っているんだと話していた。
ディンゴのお墓参りに行った日、彼女はお寺の前であの男に会ってしまった。
男は「次、ここに来たらどうなるかわかるな」と言った。
アイチは「関係ない」と反論した。