小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
そして、それぞれ午前1時までには帰っていく。
それが高校1年生の時からのあたしの日課だ。
きっとこれからも午後11時ちょっと過ぎ、店に向けて自転車を走らせることだけは変わらない。
たとえここが静かで寂しい場所だったことに気付いたとしても。
音楽が丁度、サビに入った。
最近話題のダンスナンバーはものすごくノりやすくて、握ったハンドルを交互に叩いてリズムを取る。
そんなことをしていると、少し先に見慣れた後ろ姿を見つけた。
ふんわりと巻かれた茶色い髪に、花柄のワンピース。
あの小柄な体型はチェリーだ。
「チェリー」
そう呼び掛けると、茶色い巻き髪が振り返る。
まるでアイドルみたいにかわいい顔をしたチェリーは、驚いた表情を浮かべてあたしを見た。
「何、その音量。ギター背負ったロック少年が接近中なのかと思った」
確かにそんな音量だ。
プレーヤーのストップボタンを押すと、ヘッドフォンを外した。
一瞬、音量を上げている理由を聞かれるかもしれないと思ったけれど、チェリーはそれについては触れてこなかった。
「ねぇ、後ろ乗せてよ」
そう言って、自転車の荷台にまたがる。