小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


「いいよ」


あたしがそう返事をする前に、彼女はいつも荷台に座っている。


自転車を発進させるとすぐ、後ろに座るチェリーに聞いてみた。


「今日、仕事は?終わるの遅かったの?」


実家の銭湯で働いている彼女はいつもあたしより先にオムライス専門店にいる。


ここで一緒になることなんて初めてなんじゃないかと思うくらいだ。


「え?何?」


けれど、彼女の耳にはあたしの問い掛けが届いていなかったらしく、後ろからはそう聞き返す声が届いた。


あたしはさっきより大きい声でもう一度、問い掛けてみる。


「今日は遅かったの?仕事」


「え?しごき?」


どうしたらそう聞こえるんだろう…。


「仕事」


あたしはもう一度、そう言い直したけれど、チェリーの頭の中は完全に「しごき」と思い込んでいた。


「しごき?彼氏とのプレイの話?」


「そのしごき!?」


「他に何があるの?」


「いろいろあるでしょ。例えば勉強してる奴をしごくとか」


あたしは真面目に言った。


それも大真面目だった。


しかしチェリーの頭の中はもうピンク色に染まり切っていた。



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