小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
その帰り道、アイチの運転する自転車の荷台で、あたしは何とも言えない気持ちを抱えていた。
花帆ちゃんの言っていた最低な世界のことがなかなか頭から離れない。
世の中には誰かを犠牲にして幸せになる人がきっとたくさんいるんだと思う。
あたしは絶対にそんな生き方はしたくない。
けれど、花帆ちゃんの魔法使いの話が何だかずっと心の奥に引っ掛かっているんだ。
あと3年後、花帆ちゃんの年になる頃、あたしはこの考えのままではいられなくなってしまうんだろうか。
周りからしたらあたしの考えは魔法使いになりたいと言っているのと変わらないのかもしれない。
「何か大人になるの、すごい嫌」
何だかよくわからないけれど、どうしようもなく不安だった。
そしてそれは声に出さずにはいられない。
前に座るアイチは全然、不安の色を見せなかった。
表情こそ見えないものの、いつも通りにペダルを漕ぐ。
「あたしは絶対負けない自信あるけど」
その背中が頼もしかった。
そのたった一言で、今までの不安が消えていく。
「あたしも絶対負けない」
一瞬でも負けそうだと思った自分を恥ずかしく思った。