小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「空き缶を倒す勝ちゃんったら素敵~」
突然、耳元で聞こえた声にびっくりして振り返ると、アイチは声を上げて笑っていた。
「ちょっと!そんなこと思ってないんですけど!」
「隠さなくていいって。あんなに見つめてたくせに」
「見つめてない!」
「オラ、愛生!真海子!」
あたしたちの動きを一発で止めるドスの利いた声。
恐る恐るそっちを見ると、想像と少しも違わない人物が仁王立ちで立っていた。
「手、空いてるならこっち手伝いな」
チェリーのママはニッと笑うと、こっちに向かって手招きをする。
その隣に立ったシーやんが真剣な表情でカレーの鍋をかき回しているのを見たら、絶対に行くべきじゃないと心が危険信号を出している。
けれど、あたしたちに「行く」以外の選択肢なんてないんだ。
逃げたい衝動に駆られながらも、あたしたちは鬼の元に向かった。
「はい、じゃあ、静音、お疲れ。愛生に交代な」
鬼はシーやんの後任にアイチを任命した。
「その次、真海子だから準備体操しとけー?」
カレーをかき回すのに準備体操って…。
チェリーのママはあたしにそう言うと、別の屋台を手伝っているチェリーの様子を見に行った。