小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
シーやんみたいな逃げ方をしてしまったことを反省しつつも、どこか別のところに逃げる気は起きなかった。
何より今、廊下をフラフラしている方がよっぽど危険だ。
青いイスが並んだ後ろには手すりの付いた壁がある。
あたしはそれを背にして、その場にしゃがんだ。
あの夜からエッグに顔を出さないでいたのは正解だった。
数日経った今でもこんなに気まずいんだから、もしすぐに顔を合わせていたらもっと大変なことになっていた。
このままなのかな。
ふっとそんなことを思った。
勝ちゃんとはあとどれぐらい経ったら、今まで通りに戻れるんだろう。
いや、戻れない。
きっともう戻れないのかもしれない。
それはさすがに嫌だな。
せめて元には戻りたい。
「いた」
その声にドキリとして顔を上げたけれど、そこにいたのは警察じゃなかった。
「そんなとこにいたらすぐ捕まるぜ?」
そう言って、勝ちゃんはあきれたような表情を浮かべる。
あたしは彼から視線を逸らした。
「いいんだもん。あたし、走るの遅いし」