小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「見ーっけ!」
その後にアイチの声も続く。
とくに逃げる気は起きなかった。
あたしはもうここで御用になる。
それでもう絶対に助け出されないよう、チェリーにしっかり見張っていてもらおう。
勝ちゃんが素早くこっちに近寄ってきて、あたしの手首を掴んだ。
そのまま、引っ張られたあたしはびっくりしながらも、彼にすべてを任せていた。
証拠に手首を引っ張られただけで、立ち上がり、一緒に走り出している。
「待てー!」
後ろからはアイチと駆が追いかけてくる。
警察ははさみうちと言う手段を使わなかった。
あたしは勝ちゃんと走った。
走ってオーディエンス席を出ると、丁度、4階で止まっていたエレベーターに乗り込んだ。
勝ちゃんがボタンを連打すると、扉はゆっくりと閉まる。
その上に表示される階数が「3」のところに来たのを見届けて、あたしたちは切れた息を整えた。
自然と笑顔になっていた。
勝ちゃんもまた、同じように笑っていた。
「逃げ切れたね」
「あいつら、はさみうちすれば、一発だったのにな」
気付くと、さっきまでの気まずい空気が消えている。