小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
彼女の口から寂しいなんて聞くのは初めてのことで思わず動揺してしまう。
はぐらかされないように、落ち着いた態度を意識して聞き返した。
「何が寂しいの?」
アイチは隠す様子も見せず、すぐに答えた。
「真海子が勝ちゃんのものになっちゃうの。何か娘を嫁に出すお父さんの気持ちがわかる」
まさか…
「それでお酒飲んじゃったの?」
「1人で飲んでたら、ヤケ酒になっちゃった」
今、目の前にいる彼女がかわいくてかわいくて仕方なかった。
かつてあたしが駆にヤキモチを妬いたように、アイチも勝ちゃんにヤキモチを妬いている。
アイチはさっきまでの笑いを消したまま、真剣な表情で続けた。
「真海子、絶対幸せになってね?」
「え?」
あたしが聞き返すと、アイチは少し微笑んで、ゆっくりと話し出す。
「あたしは真海子の幸せ、いつも願ってる。これから勝ちゃんに守ってもらって、パティシエの勉強も頑張って、そうやって絶対幸せになって?」
その言葉がさっきまでとは全然違う雰囲気で言われたから、あたしは思わず彼女の顔を覗き込んだ。
「アイチ?」
「幸せにならなかったら怒るから。それから」
彼女はそこで一旦、言葉を止めると、明るい笑顔で続けた。