小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
ポケットからケータイを出すと、001番に登録されているアイチの番号を呼び出した。
通話ボタンを押して、耳にあてる。
コール音はすぐに響いて、それを聞きながら歩みを進める。
「はいはい?」
明るいいつもの声は何度となく、頭の中に響いた。
けれど、その声はいつまで待っても聞こえてこない。
想像の中だったら、こんなに何度も聞こえるのに。
それはやがて留守電に切り変わってしまう。
いつもだったら切ってしまうところだけれど、今日は「ピーッと言う発信音」を聞く。
「…アイチ?今、どこ?…何か大変なことになってるよ?これ聞いたらすぐかけ直して?絶対だよ?」
メッセージを入れて、電話を切った。
ケータイをポケットにしまいながら、バカらしいと思う自分がいる。
信じたくない現実を突きつけられても、結局、あたしの頭はそれをちゃんと受け入れている。
信じられないと思いながらも、この留守電をアイチが聞くことはないんだと、頭の中ではしっかり理解してしまっている。
それでも電話をかけたかった。
かければ何かが変わるかもなんて1%くらいは思っていた。
ゆっくりと視線を上に向ける。
空が青い。
今日に限って、何でこんなに青空なんだ。