小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


ポケットからケータイを出すと、001番に登録されているアイチの番号を呼び出した。


通話ボタンを押して、耳にあてる。


コール音はすぐに響いて、それを聞きながら歩みを進める。


「はいはい?」


明るいいつもの声は何度となく、頭の中に響いた。


けれど、その声はいつまで待っても聞こえてこない。


想像の中だったら、こんなに何度も聞こえるのに。


それはやがて留守電に切り変わってしまう。


いつもだったら切ってしまうところだけれど、今日は「ピーッと言う発信音」を聞く。


「…アイチ?今、どこ?…何か大変なことになってるよ?これ聞いたらすぐかけ直して?絶対だよ?」


メッセージを入れて、電話を切った。


ケータイをポケットにしまいながら、バカらしいと思う自分がいる。


信じたくない現実を突きつけられても、結局、あたしの頭はそれをちゃんと受け入れている。


信じられないと思いながらも、この留守電をアイチが聞くことはないんだと、頭の中ではしっかり理解してしまっている。


それでも電話をかけたかった。


かければ何かが変わるかもなんて1%くらいは思っていた。



ゆっくりと視線を上に向ける。


空が青い。


今日に限って、何でこんなに青空なんだ。











< 244 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop