小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
あたしの中のアイチは、まだ誕生日カウントダウンで泣いた時のままで止まっているんだ。
このドアを開けたら、それが全部崩れてしまう。
息をしていないアイチを見たら、もう死と言う現実から逃げられない。
それでもこのまま引き返すことだけは絶対にしたくなかった。
ドアノブに手をかけると、ゆっくり回す。
一息おいてから、ゆっくりとドアを自分の方に引く。
鍵はかかっていなかった。
1番に目に入ってきたのは、短い廊下の先、リビングにいる駆の姿。
彼は少し疲れの見える顔をしていて、けれど、あたしを見ると、優しい笑みを浮かべた。
「おはよう」
「…おはよ」
軽い挨拶だけを返してから、靴を脱いで、顔を上げる。
と、千津ちゃんと勝ちゃんも、部屋から顔を出して迎えてくれた。
千津ちゃんは待ちくたびれたと言うように、隣の寝室に入って行った。
「ほら愛生。真海子が来てくれたわよ」
いよいよ対面することになる。
また、この場から逃げ出したい衝動に駆られたけれど、そんな情けないことはしたくない。
あたしはうつむいたまま、1歩、また1歩とアイチの寝室に近付いて行った。