小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
ふすまが開いているのが見えた。
少しだけ中の畳も見える。
この部屋の中にアイチが寝かされている。
体が今にも震え出しそうだった。
けれど、もう逃げられない。
逃げちゃいけない。
あたしはうつむいたまま、ゆっくりとアイチの寝室に入った。
顔を上げることができなかった。
ただうつむいて、ぎゅっと目をつむって、そのままそこから動けない。
涙が溢れてきた。
「真海子」
先に部屋に入っていた千津ちゃんが優しくあたしの名前を呼ぶ。
次々に溢れ出した涙は、目をこんなにも固く閉じていると言うのに頬を伝う。
嗚咽が漏れる。
「真海子、無理しなくていいよ!」
勝ちゃんがそう言ったけれど、あたしは首を横に大きく振ってから、目を開けた。
顔を上げた。
真っ白い布団の上、アイチは寝かされていた。
話に聞いた通り、まるで寝ているみたいだ。
髪はきちんといつも通りにセットされ、顔にはとくに目立った傷もなく、血色がよく見える。
起こせば、目をこすりながら起きて、あの明るい笑顔を見せてくれそうだ。
「…アイチ?」