小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
目を閉じたままの彼女に思わず声をかけていた。
だって起こせば、まだ起きそうな雰囲気を出しているから。
アイチの布団のすぐ側まで歩いて行くと、彼女を見下ろすようにして、もう1度声をかけた。
「アイチ」
さっきよりもしっかりした声で、彼女の耳にもちゃんと届くように。
アイチからの返事はない。
目を開けることも、起き上がるようなこともない。
あたしはその場に座ると、アイチの顔を覗き込んだ。
近くで見ても、全然違和感がない。
いつもと同じ。
「ねぇ、アイチ」
その声が震え出したのが自分でもわかった。
これで3回目になるけれど、彼女からの返事はやっぱりない。
寝ている時と全く変わらないのに、いつまで待っても返事はない。
視線をアイチの顔から少し下に動かす。
今日の彼女はいつものボーイッシュな格好じゃなく、白い着物を着ている。
和服を着ている姿なんて、中学生の夏祭りの時ぐらいでしか見たことがないから、ものすごく違和感を覚えた。
そんな彼女の胸元に白い雪のような粉がパラパラと落ちていた。
それが何なのかは何となく予想がついたけれど、いろいろ考える前にあたしは白い布団をめくっていた。