小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
あたしはまだそうなれない。
情けない。
何度か確認の声がいろんな方向から飛んできて、あたしはその度にまた千津ちゃんから聞いた日にちを繰り返す。
その作業は1分もかからないうちに終わった。
ペンを置く音が聞こえる。
ケータイを閉じる音が聞こえる。
「…」
静かな空気が広がっていくのを止めるくらいはしたいと思った。
けれど、そう思ったのはあたしだけじゃなかったのかもしれない。
「もう1年」
「もしさぁ」
「この日って」
シーやんと駆とあたしの言いかけた言葉が混ざる。
一旦、出しかけた話題を引っ込めて、駆とシーやんを見ると、2人もまたそうしていた。
「何だよ。先、言えよ」
シーやんがあたしを見てそう言うから、あたしは慌てて駆を見た。
「駆、先、どうぞ」
「いや、先、いいよ」
駆の視線がシーやんに回される。
シーやんの視線がこっちに回ってきたのには気付いたけれど、あたしはそれを受け取らなかった。
「もう1年も経つんだな」
シーやんはそう一言だけ言って、ポケットから出してきた箱から、タバコを1本取り出して、火をつける。
「…」