小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


あたしはただ首を横に振った。


「じゃあ何で?」


もう聞かずにはいられないと言ったように、チェリーがシーやんとは逆の方向からあたしの顔を覗き込む。


あたしはただ一言、答えた。


「ごめん、アイチにホント悪いことした」



手首を切った理由はとてもじゃないけれど、言えなかった。


あんな残酷な事実を抱えるのは、あたし1人だけでいい。


第一、アイチだってきっと秘密にしておいてほしいはずだから。



あたしはアイチの死の本当の理由を、自分だけの胸にしまうことを決意していた。


「真海子」


名前を呼ばれて視線を動かすと、そこには駆の優しい笑顔があった。


優しい、けれど悲しい笑顔。


「おれも真海子に聞きたいことがあるんだ」


駆はそう言って、あたしの目をまっすぐに見る。


今度は何を聞かれるのか予想が付かなかった。



駆は言った。


「おれさ、ついこの前、愛生と別れたんだよね」


それは衝撃的な告白だった。


だってアイチはそんなこと一言も…


「何で別れたんだよ。お前が言い出したのか?」


シーやんは真剣な表情で駆をまっすぐに見ていた。



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