小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


アイチはその言葉に何も言わなかった。


ただ、優しい笑顔を浮かべて言う。


「みんなにもありがとうって、事故なんか起こしてごめんって伝えといて。でも精一杯生きて。また絶対会えるから」


「待って、アイチ、ねぇ!」


彼女の笑顔が少しずつ薄れていく。


あたしが何を言ってももう答えてくれない。


代わりにみんなの声が鮮明に聞こえてきた。


座っていたはずの自分が寝ていたことに気付く。



ゆっくりと目を開けた。


そこは見たこともない部屋で、けれど、保健室みたいなカーテンがあったから、病院だと言うことはすぐにわかった。



あたしのベッドの周りにはみんながいた。


シーやん、チェリー、勝ちゃん、駆、千津ちゃん。


「真海子!わかるか!?」


「大丈夫か!?」


その問いにゆっくりと頷く。


「目を覚ましました!」


ナースコールを押したシーやんが大きな声でそう伝える。


看護士さんが「すぐ行きます」と答えた声が聞こえた。



涙が耳の方に伝っていくのを感じた。


反対側の耳ももうすでに濡れた感覚があるから、どうやらずっと泣いていたみたいだ。



< 296 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop