小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
言いたいことはたくさんあった。
聞きたいこともたくさんあった。
けれど、何より伝えたかった言葉、それはアイチが無事に帰ってきたら絶対に笑顔で言うんだと、大切にしまってきた言葉だった。
「言うよ?」
「何、そんなもったいぶって」
「言うからね?」
大きく息を吸い込むと、吐き出す時には音を付けた。
「おかえりっ!」
自分の声にハッとすると、そこはリビングのソファだった。
遠くからどこかの家の風鈴の音が聞こえてくる。
ベランダから差し込んでくる光が、いつの間にか刺すような強さをなくしていた。
仰向けに寝転がったまま、左腕で目を覆う。
もう何もかもが元通りだと思った。
アイチがやっと帰って来て、これからまた一年前みたいな日々が回っていくんだと信じていた。
神様はやっぱり意地悪だ。
やっとアイチの夢を見られたと言うのに、こんな目の覚め方なんてありえない。
目を覆った左腕が今にも濡れてしまいそうだった。
情けなくて嫌だ、とは思ったけれど、そう思えば思うほど、目の奥は熱くなってくる。