小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「どうしたの?」
チェリーがそう言うと、勝ちゃんは自分の目をこすりながら言った。
「いや、おれの気のせいかも。やべぇ、酔ってるな」
「何だよ、どうした?」
駆がそう聞くと、勝ちゃんは決心したように、恐る恐る自分の前に置いてある空のグラスを指差した。
「何だよ、グラスがどうかした?」
シーやんは不思議そうな表情をしながらも、そのグラスに顔を近付ける。
あたしたちもそうしてみたけれど、氷の溶けたグラスにとくに変わったところはない。
不思議そうな表情を消さないあたしたちに、勝ちゃんはゆっくりと、けれど、はっきりと言った。
「いくつある?」
いくつ?
みんなが一斉に、今、テーブルの上に乗っているグラスを数え始める。
もちろん、合計で5つしかないに決まっている。
アイチがいなくなってからと言うもの、あたしたちはグラスを用意する機会がある度、5つしかないそれをしんみりした気持ちで見ていた。
けれど、今、カウンター席とテーブル席にあるグラスは全部で確かに6つあった。
何度数えても、どう数えても6つのグラス。