小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
ネックレスか命か
人を犠牲にする生き方を選んでいたら、こんな面倒なことにはならなかったのかもしれない。
あたしは職場の後輩の奈々(なな)ちゃんと話をするため、パティスリーの裏口で彼女のことを待っていた。
奈々ちゃんは今年の3月に入ってきたばかりの新人で、すごくかわいい後輩だ。
仕事は何をやるにも一生懸命。
どんな場面でも気遣い上手。
何かと「奥戸(おくど)さん」と慕ってくれて本当にかわいい後輩だった。
少し前までは。
事の始まりは、たまたま仕事終わりに、他の子のバッグや服をゴミ箱に捨てている奈々ちゃんを見てしまったことからだった。
その時の彼女はすべてが終わったと言うような表情を浮かべていて、けれど、すぐに慌てた様子であたしの前に駆け寄ってきた。
「奥戸さん。あの子、奥戸さんの悪口ばっかり言ってたんです。あたし、どうしても許せなくて。本当にひどい子なんですよ!」
その口調があたしの同意を求めて必死だった。
けれど、あたしはそれに乗ってあげることができなかった。
「ありがとね、あたしのカタキみたいなことしてくれて。でもあたしは大丈夫だから。それ、元に戻しときな」