小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
第二章

アイチがいた夏



午後11時。


自宅マンションの斜め向かいにあるアパートの下で、あたしはいつものようにアイチが来るのを待っていた。


いつものように、とは言っても、自分の方が2、3分早く来るようにし始めたのはつい1ヶ月ほど前からで、わざわざそんなことをしているのは、あたしなりのちょっとした作戦だ。


今日も古びた屋根付きの駐車場には青い自転車が止めてあって、大抵の移動にはそれが大活躍してくれる。


けれど、あたしがずっと乗りたくて乗りたくて仕方ないのはそれじゃない。


自転車だけが並ぶその奥には、いつも決まったバイクが3台、止められている。


どれもアパートの住人の物なんだけれど、その中の1台だけにはいつもきちんと灰色のカバーが掛けられていて、その下に隠れているのは、約2年前に新車で購入された黒いアメリカンバイク。


これが何ともイカツくて、外国の映画で、筋肉ムキムキの男の人たちが乗り回していそうでかっこいいんだ。


アイチが免許を取った16歳の時から、あたしはずっと後ろに乗りたいと言い続けてきた。



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