小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


バイクの話が出る度にしつこいぐらいせがんできたし、最近ではその話題にならなくても、自分から切り出しては頼んでいる。


と、言うのに、彼女はいつになっても快い返事をくれる気配がない。


「免許を取って1年間は後ろに人を乗せられない」から始まり、「ヘルメットが2つない」とか、「ガソリンが少ない」とか、いつも適当な理由を並べて、するりするりと交わしていく。


そのうち、乗せられない理由が底をつくと、「自分の運転技術に自信がないから」などと、一発で嘘だとわかる理由を作り出す。


アイチと同じ時期に免許を取ったシーやんが「あたしより全然うまい」と言うほどだから、本当はものすごく乗りこなしているはずなのに。


あたしは今日も、灰色のカバーが掛かったバイクの前で、11時2、3分前のスタンバイを完了させていた。


そろそろ彼女の乗せられない理由も本当に底をつくはずだ。


彼女自身、そんな危機を感じているはずだとは思う。


あともう一押し。


一体、どんな頼み方がその一押しになるだろう。


そんなことを考えていると、2階の一番端の部屋からドアの閉まる音が聞こえた。



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