小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
屋根の下からちょっと顔を出してみると、今まで電気のついていた窓が暗くなっている。
鍵をかける音が小さく響くと、スタスタと廊下を歩くサンダルの音が聞こえて、そのうちアイチは階段に姿を現した。
毛先をランダムに動かしたチョコレート色のショートヘアーに、オレンジ色のタンクトップ。
ボーイッシュな格好をしていることが多いアイチは、そのせいもあってか、女子校に通っていた高校時代、後輩にファンクラブを作られるほど、かっこいいと騒がれていた。
とくに、あのイカツいバイクを乗り回すようになってからは、そこらの男より全然かっこいいと、より、きゃあきゃあ言われるようになった気がする。
今日もタタンタタンとリズムを付けて階段を降りて来るアイチの姿を見ていたら、後輩たちの黄色い声が耳の奥で聞こえたような気がした。
「お待たせ」
1階に着いたアイチはこっちを見てそう一言だけ言うと、すぐに駐車場に並んだ青い自転車を取り出しにかかった。
鍵を外すと、側にある数台の自転車を避けながら、進行方向の駐車場の方へハンドルを向ける。