小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


「絶対、乗せる気ないでしょ?」


「バレた?」


へへっと笑う彼女を見るなり、あたしは駄々をこねる子どものように体を前後に揺らした。


「乗せてよー」


「ちょっと!危ない、危ない!」


自転車は一気にバランスを崩したけれど、アイチの素晴らしい運動神経のおかげで倒れるなんてことにはならなかった。


ただ、あたしがいつまでも体を揺らすのをやめないせいで蛇行運転を繰り返す。


「ちょっと危ないって!」


前から来たクレームの処理を放っておいて、体を揺らしたまま、交渉を続ける。


「バイク乗せてくれるなら、おとなしくしてる」


けれど、ハンドルを握るアイチは、それに答えている場合じゃない。


「危ないから!」とか「ホント倒れる!」なんて言いながら、バランスを保つのに必死だ。


それをいつまでも邪魔し続けるあたしに、アイチは早口で言った。


「わかった、わかった。いい考えがある」


その言葉に一旦、揺らしていた体を止めると、前に座っているショートヘアーに注目する。


ショートヘアーは前を向いたまま、小さい子どもを説得するような口調で言った。




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