小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「今、バイクと同じくらいスピード出すからそれでいいでしょ?」
「却下」
却下に決まっている。
「バイクじゃなきゃやだ」
そう言ってまた体を揺らそうとしたけれど、それよりアイチの行動の方が一歩早かった。
急に前に進んだ自転車に、今度はあたしがバランスを崩しそうになる。
「ちょっと危ないじゃん!」
スピードを上げる運転手にクレームを付けると、彼女は声を上げて笑った。
「仕返しー」
「ムカつくー」
そう悪口を言ってはみたものの、顔がにやけていることは自分でもわかっていた。
アイチが本当に楽しそうに笑うから、ついこっちまでつられて笑顔になってしまう。
駐車場から車道に出た自転車は、ぐんぐんとスピードを上げて行った。
この時間のこの道は、車や人の姿はもちろん、昼間なら毛づくろいをしているネコすら見当たらない。
街灯がぼんやりと照らし出す車道は、あたしたちの専用通行帯みたいだ。
「もっとスピード出してよ!」
「結構出てんじゃん!」
「まだまだバイクみたいじゃない!」
騒がしい自転車は、オムライス専門店清澄エッグを目指して、スピードを上げた。