小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
合い鍵
マンションのエントランスを出ると、斜め前にある短い横断歩道を渡る。
すぐ前には車が8台も入る大きな駐輪場が広がっていて、あたしはさらにその奥にあるアパートを目指して歩いていた。
いつもの朝の支度を済ませてから、今日ももちろんクローバーのネックレスを首に掛けた。
元々は四つ葉のクローバーだったチャームは一部が欠けて、三つ葉になってしまっているけれど、あたしの一番の宝物だ。
歩きながら、アパートの2階、一番端の部屋を見上げる。
と、その窓は中が見えるほど、大きく開け放たれていた。
この鍵は最後の仕事をすることなく、返されることになりそうだ。
そして、その予想通り、2階の一番端の部屋はドアまで大きく開け放たれていた。
中を覗くと、短い廊下の先にリビングが少し見える。
もう1年くらいは見ていない懐かしい光景だったけれど、少しも記憶は薄れていなかった。
白いコンクリートの壁に、焦げ茶色のフローリング。
玄関を入ってすぐ右側はお風呂とトイレになっていて、多分、その中だって少しも忘れずに記憶しているはずだ。
それぐらいあたしはこの場所に来ている。
それももうずっと昔から。