小さい頃に習うこと、大きくなってわかること

合い鍵



マンションのエントランスを出ると、斜め前にある短い横断歩道を渡る。


すぐ前には車が8台も入る大きな駐輪場が広がっていて、あたしはさらにその奥にあるアパートを目指して歩いていた。


いつもの朝の支度を済ませてから、今日ももちろんクローバーのネックレスを首に掛けた。


元々は四つ葉のクローバーだったチャームは一部が欠けて、三つ葉になってしまっているけれど、あたしの一番の宝物だ。



歩きながら、アパートの2階、一番端の部屋を見上げる。


と、その窓は中が見えるほど、大きく開け放たれていた。


この鍵は最後の仕事をすることなく、返されることになりそうだ。


そして、その予想通り、2階の一番端の部屋はドアまで大きく開け放たれていた。


中を覗くと、短い廊下の先にリビングが少し見える。


もう1年くらいは見ていない懐かしい光景だったけれど、少しも記憶は薄れていなかった。


白いコンクリートの壁に、焦げ茶色のフローリング。


玄関を入ってすぐ右側はお風呂とトイレになっていて、多分、その中だって少しも忘れずに記憶しているはずだ。


それぐらいあたしはこの場所に来ている。


それももうずっと昔から。



< 6 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop