小さい頃に習うこと、大きくなってわかること



絃(げん)さんのケーキは彫刻みたいだと、あたしはいつも思っていた。


白い生クリームが、テーブルクロスを敷いたみたいにピシッとスポンジに塗られて、絞り袋から出されたクリームがその上を飾る。


細かい部分までキレイな模様になっているそれは、食べ物とは思えないくらい素敵な芸術品だった。


それを作り出す絃さんはいつだってまっすぐにケーキと向き合っている。


動き1つ取っても勉強になりそうなその技術に見入っていたら、今、出来上がったばかりの芸術品をこっちに差し出された。


「真海子、あとよろしく」


「はい」


パティスリー「ハーモニー」に入って、早3ヵ月ちょっと。


最初は道具の準備や後片付けしかさせてもらえなかったけれど、最近では少しずつケーキにも触らせてもらえるようになってきた。


それは誰にでもできるような、例えば、指定されたケーキの上にイチゴやチョコを乗せていくとか、そんな簡単な仕事だったけれど、それでも少しずつパティシエに近づいているような気がして嬉しかった。


「真海子、次、これね」


「はい」


今、自分が考えていることを現実に変えるためには、どんなに小さなことでも大事な一歩な気がした。



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