小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
その日の休憩は、販売のリーダーを務める進藤(しんどう)さんと一緒になった。
あたしと1回り年の違う進藤さんは、ハーモニーがオープンした時から働いている正社員で、そのふくよかな体のせいもあってか、従業員からはお母さんみたいな存在として慕われている。
あたしもここに入ったばかりの頃は、随分、不安な気持ちを和らげてもらった。
2人で休憩室の白いテーブルに弁当を広げながら、「今日は暑いね」とか「話題の店に行ってみたけどあんまりおいしくなかった」とか、たわいもない話をする。
進藤さんはいつもかわいい弁当箱に入った手作りの和食を持ってきていて、今日も変わらずそれを食べながら、「昨日のドラマの展開が不満だった」と言う話を始めた。
彼女の大好きな俳優が演じている役が、いよいよヒロインに告白するような次回予告だったのに、そんな甘い展開にはならずに別の問題が浮上してきてしまったらしい。
「テレビ局に抗議しようかと思った」
なんて冗談を言いながら、ケータイを開き、何をいじったのか数秒で閉じると、今度はこれからの客の入り方を予想し始める。