小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


「この暑さじゃ客足悪いかもね。ただでさえ、夏は生クリームたっぷりのケーキって売れないから」


言い終わってから、きんぴらごぼうを1口食べる。


大口を開けて1口で入れる進藤さんの食べ方は、いつだっておいしそうで、こっちまで気分の良くなる食べ方だ。


それを見ていたら、進藤さんはプラスチックでできたピンク色の箸を顔の前で止めて、真剣な目をしてこっちを見た。


「真海子さぁ、夢ってあるの?」


あまりに突然の質問に、すぐには言葉を返すことができなかった。


夢と言うものは極力、人前でしゃべりたくない。


と、言うのがあたしなりの考え方だ。


進藤さんはまだきんぴらごぼうを少し口に残しているのか、しゃべりにくそうにしながらも、最近見たテレビで「今時の若者は夢を持たない」と言う話題を放送していたと言った。


それを見て、あたしのことが気になったらしい。


「別に、夢があってもなくてもどうこう言おうってわけじゃないの。ただ、真海子がハーモニーに入ってもう3ヵ月だけどさ、そう言う話ってしたことなかったなと思ってさ」


そう言うと、進藤さんはさといもの煮転がしを1口で口に入れた。



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