小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「え!?」
「真海子が休みって聞いて、すごく残念がってた。でも、また近いうちに来るって」
大岩先生はあたしの高3の時の担任だった。
50代の体格がいい体育の先生で、うちの女子校に来る前は共学の学校にいたらしい。
そして、そこで担任したクラスの中に絃さんがいたんだ。
進路相談の時、パティシエになりたいことを話したら、先生はすぐにハーモニーを紹介してくれた。
そして今でも暇があると、ここに様子を見に来てくれる。
「絃ちゃん、すごい大喜びでさ、仕事放ったらかしてずっと先生と思い出話してたんだよ?それも『掃除の時間に廊下を水浸しにして怒られた』とか『体育の授業をサボろうとして捕まった』とか、そんな話ばっかりして盛り上がってさ。ホント子どもだよね」
絃さんと同い年の進藤さんはこの店で唯一、オーナーである彼にタメ口をきける。
まるで昔からの親友みたいな関係だから、お互いをからかったり、今みたいな会話もしょっちゅう聞いていた。
そんな2人の関係こそ、ハーモニーの和やかな雰囲気を作り出す重要な要素だとあたしはいつも思う。
まるでお父さんとお母さんみたいなんて、口に出したら怒られそうなことをこっそり思いつつ、弁当を口に運んだ。