小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
エッグのドアを開けると、乾いた鈴の音が鳴る。
「お疲れー」
店内に響くいつもの挨拶。
そこに今日は1人分の声が多い。
そのことにみんなが気付くのは、一瞬の出来事だった。
「お~、多部ちゃん、いらっしゃい」
こっちに振り返った駆が、片手に持っていたタバコを少し上げて歓迎する。
同じくタバコを吸っていたシーやんが、灰を携帯灰皿に落としながら「久しぶりじゃん」と言う。
その前に座っていたチェリーがニッコリと笑って小さくこっちに手を振る。
勝ちゃんはグラスを拭いていた手を止めて、駆と同じように手を少し上げて歓迎する。
あたしたちが高校2年生の時から、何度となくエッグに遊びに来ている多部ちゃんを、今日もみんなは変わらず歓迎した。
いつものようにあたしが指定席に歩き出すと、駆はタバコをくわえたまま、コーラの入ったグラスと灰皿をすぐ隣の席に移動し、自分の指定席を多部ちゃんに譲る。
「あっ、すみません」
多部ちゃんはそう頭を下げると、駆の指定席に座った。
「何、飲む?」
アイチが自分の指定席に座ったところで、カウンターから勝ちゃんがそう聞く。