小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
「えーっと…」
そう言って多部ちゃんは少し迷った後、アイチと同じ、ジンジャーエールを注文した。
「了解」
勝ちゃんがニコッと笑って、ジンジャーエールをグラスに注ぐ。
何、今の。
勝ちゃんがニコッと笑ったところなんて最近、全然見ていない。
なんて、何を妬いているんだ、あたしは。
告白の返事もできないくせに、妬けるような立場じゃない。
「多部ちゃん、今日はどこ行ってたの?」
アイチのその声に横を見ると、多部ちゃんは感じのいい笑顔で答えた。
「学校見学です」
「そっかー。受験生だもんね」
アイチがそう言うと、多部ちゃんは思い出したように言った。
「先輩、ここから亀戸って近いですか?」
千葉から通学している多部ちゃんはこの辺の地理に詳しくない。
そう聞いた多部ちゃんにアイチは頷いた。
「近いよ」
「あたし、亀戸天神に行きたくて。あそこ、勉強の神様らしいじゃないですか。どうやって行くんですか?」
アイチは少し考えた後、「ここからだと、まず錦糸町に出て、そこから亀戸かな」と手短に説明した。
「駅から近いんですか?」
「駅からはー…近くないね」