小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
その笑顔からゆっくりと視線を横に動かしてみる。
そこにあるのはたくさんの花やお菓子で溢れた仏壇。
しばらく見ないうちにまた賑やかになった。
千津ちゃんは一番端にあったチョコレートの箱を並べ直しながら言った。
「みんながどんどん持ってきてくれるから、ここが寂しくなったことなんて一度もないのよ?よかったわね、愛生」
そう上を見上げた千津ちゃんの視線の先に、今日、あたしが見た夢の出演者はいた。
夢の中であたしを嬉し泣きさせたあのショートヘアーは、今、黒い額に入った写真の中で最高の笑顔を浮かべている。
夢の中ではあんなに近くにいたのに。
幸せな夢はいつだって残酷だ。
仏壇の前に座ると、線香に火をつけて、灰の中に立てた。
手を合わせてから、アイチの幸せを強く強く願う。
1分以上はそうしていてから、合わせていた手を離して、仏壇の中に視線を入れた。
そこに置かれているのは1本の鍵。
それは紛れもなく、アイチが持っていたあたしの家の鍵だ。
今、持ってきた鍵とそれを交換するだけで事は終わる。
けれど、あたしはなかなか鍵に手を伸ばすことができなかった。