小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


中学生の時、アイチとあたしは千津ちゃんの勧めで合い鍵を交換した。


2人とも家に保護者がいない家庭環境だったから、それを心配してのことだった。


けれど、合い鍵を使うような緊急事態なんてそうそう起こるはずもなく、多くは家に突撃訪問したり、なんてイタズラに使われていた。


もちろん、真面目な理由で使われることもほんの少しだけあったけれど。



アイチが合い鍵を持っていてくれることで、あたしはいつだって安心できた。


けれど、もうアイチはいない。


「無理しなくていいのよ?」


後ろから聞こえた声が優しかった。


自分の持ってきた鍵をいつまでも見つめていたから、千津ちゃんはあたしがここに何をしに来たのか読んだんだと思う。


思わずまたその言葉に甘えてしまいそうになる自分がいた。


けれど、もうそんなことじゃいけない。


振り返ると、千津ちゃんをまっすぐに見た。


「今までこの鍵、持たせてくれてありがとう」


まずはアパートの管理人でもある千津ちゃんにそう伝える。


千津ちゃんは優しい笑顔のまま、何も言わずに大きく一度頷いた。



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