小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


「大丈夫だって。たとえ会ったとしたって、もう小学生じゃないんだから」


表情は見えなかったけれど、笑っているだろうことは声からすぐに読むことができた。


こんな時もやっぱり彼女は笑っている。


「アイチに何かしたらぶっ殺す」


本気でそう言ったけれど、アイチはまるで小さい子どもの相手をするみたいに笑った。


「ははは、頼もしいねぇー」


「ちょっと!本気なんですけど!」


「え?だから頼もしいって」


絶対思ってない…。




あたしたちが11歳の春、アイチは母親とその恋人と一緒に暮らすため、生まれ育ったこの街から引っ越して行った。


もちろん、愛犬のディンゴも一緒だった。



アイチの母親は、いつも男とフラフラしているような人だったから、アイチも連れて行くと知った時は、やっと彼女の方を見るようになったんだとあたしは信じて疑わなかった。


だからこそ、寂しい気持ちと戦って、それにちゃんと勝ってから、彼女を笑顔で送り出したんだ。


いや、その時もあたしを寂しさに勝たせてくれたのは紛れもないアイチだったけれど。



< 98 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop