【BL】ひらゝ舞ふ
8
北王子家は四人の男子を授かっていた。
長男八尋、次男真造、三男実朝、四男春三である。

八尋は北王子家に相応しい聡明さと威光で、誰しも彼を慕った。
真造はで誠実、稜々たる気骨で寸分の狂いもない判断が出来た。
実朝は明朗快活、常識に捕われない自由奔放な独創性を兼ね備えた。
春三は寛容で勤勉、一つの事を突き詰める探求心があった。


兄弟四人が一人一人役割を担って生まれたように、北王子家が栄華を誇るのだろうと疑いもしなかった。




八尋が女中との間に子供を孕ませてから父子の確執が生まれ、強制的に女中は解雇され二人は引き離された。
兼松に押さえ付けられた八尋はかつての雄大さを失い、病床に伏す。

仲違いしてはいたが、兼松には八尋以上の北王子家の跡目は居ないと認めてはいた。

真造では北王子を纏めきれないことを識っていた。

孫にも男爵家の誇りと秩序を理解できるほどの逸材は見当たらなかった。



一度倒れて、死線をさ迷った兼松の脳裏にふと、過ぎったのは名も識らぬ女中の後ろ姿だった。

かつて女中であった氏永の姓を名乗る子供を見つけ出す――――……―見、金持ちの道楽にも思えたが、北王子男爵家を継ぐ器に為りうるか測るためでもあった。
この際、血にはこだわらなず、眷属で才能があれば惜しみ無く育てる。あくまでも「あれば」の話で或るであったが。



もう一度八尋を育て直し、完璧な北王子男爵家を創ることが兼松の使命であった。
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