ひこうき雲
「おはよー!バイト順調そうじゃん」
朝から元気なこの声は…
「一夏!おはよ。まあ、なんとかね」
あたしたちは並んで
教室に向かう。
「あのさあ…聞いてくれる?」
ちょうど教室に入った辺りで
一夏は申し訳なさそうに言った。
「なーに?どしたの」
聞く気満々のあたしは
とりあえず一夏を席に座るように促す。
「…うん。たいしたことないけど」
「なになに?もったいぶらずに言ってよ」
一夏が急に下を向き始めた。
「一夏?」
あたしもなんだか不安になる。
「あ、あのさ。好き…なの」
「は?好きなの、って。誰が?」
一夏の発した言葉は
全くもって意味のわからないものだった。
「一夏、はっきり言ってよ」
俯きっぱなしの一夏に、
たいしたことないわけがないって
すぐに察したけど…
「あたしね、好きになっちゃったの」
すべて聞き終わったあと
あたしの心の中は
凍りついた。
「誰を、好きになったの?」
心臓が、嫌な音を立てた。
「……野田さん、なんだ」
予感は
的中した。
一夏が好きなのは
野田さん。
バイト先で
女の子にモテる
優しい
野田さん…。
「あまね、応援してくれない?」
─えっ
応援って、恋に協力しろってこと、
だよね?
「………」
「あ、あまね??」
「えっ…、あっうん!当たり前じゃーん!!さりげなくアピっとくよっ!任せて♪」
…当たり前、だよね。
友達が好きな人だもん。
幸せになって欲しいもん。
「ありがとーあまねえー」
泣きそうな顔してあたしに飛びつく一夏。
「よしよし、頑張ってね!」
「うんっ、頑張るうー」
一夏はかなりモテる。
女の子らしくて
料理、裁縫、ピアノなんでもできる。
見た目は今風なくせに
わりと古風な芸を身につけている。
それに頭もいい。
ここ最近
一夏は告白を断り続けていた。
それは
野田さんが好きだから
だったわけか。
一夏と野田さん。
二人並べたら
お似合いすぎてため息が出る。
協力、かあ…
遠くでチャイムがなった。