水色のエプロン
私が名前を呼ぶと美枝は、振り向き私に気付いた。
「もうちょっとでバスの運転手さんに犬を連れてるのが見つかるところだった。」
 そう言って美枝は私ににっこりと微笑んだ。
 いつもおしゃれで完璧な美枝の髪も、この湿気でしおれ、少しイメージが変わって見えた。
「ほら見て、」
そう言って美枝はタオルに包んだ犬をそっと私に広げて見せた。
そのタオルに包まれていた犬は、汚れて濡れて凍えそうになっている、小さな白いマルチーズだった。
「マルチーズだ。」
 私はそっとその犬の頭をなでた。白い顔に黒い2つの瞳と一つの鼻が潤んでいるのが解った。
「これ、誰かが飼っていた犬なんじゃないの?」
 私はそう美枝に言った。
「うん、私もそう思ったんだけど、首輪もしてないし、回りには誰も人がいなかったの、それに横断歩道を渡ろうとして車に引かれてもかわいそうだと思って、、。」
 美枝はもう一度、タオルの中のマルチーズを覗き込んだ。
「おまえは何処から来たの?飼い主さんはいないの?」
 美枝はマルチーズにそっと話しかけた。しかし、もちろんマルチーズが答えるわけもなかった。
 雨がまた粒を大きくし、私たちの傘をパチパチと叩いた。
「とりあえず、お母さんに聞いてみるよ。」
「ほんと?ありがとよかったね。ちび犬ちゃん。」
 私は美枝から犬を受け取った。思ったより軽くって暖かかった。
「何かあったらまた連絡するね。」
 私はそう言って美枝とその場で別れた。
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