水色のエプロン
 私は軽く両頬を叩いて気合を入れた。
 するとそれとほぼ同時にカラカランと扉を開けるベルの音がした。
「おはようございます。」
 振り返ると扉の前に、五、六十代くらいと思われる奥さんが、凛々しい顔をした柴犬を連れていた。
「おはようございます。伊藤小太郎ちゃんですね?」
「はい、そうです。今日は代わりのトリマーさんがいらっしゃるって聞いてやってきたけど、こんなにかわいらしいトリマーさんだとはね。小太郎もきっと喜ぶでしょう。」
 そう言って伊藤さんは微笑んだ。
(よかった、優しそうなお客さんで・・・。)
 私は心の中で少し安心していた。
「今日のご予約もシャンプーコースですね?」
「えぇそうよ。」
「何か、他に小太郎ちゃんの気になることなどはありませんか?」
 何か気になることはりませんか?私は必ず飼い主さんにこの言葉を掛ける。トリマーはペットの全身をケアする仕事、病気や怪我の早期発見もトリマーの大事な仕事なのだ。これは全部店長の受け売りだけど。私はその小さな質問が凄く約にたつ言葉だって信じていた。
「そうねぇ、最近小太郎の毛が抜けちゃってしょうがないのよね。やっぱりもうすぐ夏だからかしら。」
 春から夏にかけて、秋から冬にかけて、年に二回毛皮を着た動物達は換毛期という時期を迎える、言わば人間で言う衣替えのこと。
犬の皮毛は主にオーバーコートとアンダーコート、上毛と下毛の二層に分かれている、オーバーコートは硬い毛で、雨や直射日光などを防ぐコートの役目をし、アンダーコートは綿毛のようで暖かく体温の保持などの役割をしている。  
春から夏に掛けては主に、アンダーコートの皮毛が生え変わる。毎年この時期になったら一度抜けて新しいコートに生え変わるのだ。冬の毛をうまく取り除いてあげることで皮膚によい刺激を与え、またよい冬の毛が作れる皮膚の状態に準備してあげることが大切になる。
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