水色のエプロン
「だけど、トリミングに来たワンちゃんには、嫌がることを、どうしてもしなきゃいけないわ。爪切りだって爪が伸びすぎれば、怪我や歩行困難の原因にもなるし、シャンプーだって健康な皮毛を保持するには大切なことよ。嫌がることをしなきゃワンちゃんのためにもならないでしょ?」
「人間の考え方はそうなのかも知れないけど。そういうことを嫌いにさせてるのは、人間の方なんだよ。オイラは小太郎やキャンディーなんかがここへ来るのをよく見ているし、なんでそんなに暴れるのかを聞いた事だってある。」
「え?じゃぁどうしてそんなに嫌がったりするの?」
「小太郎は昔、家のお風呂場でシャンプーされた時、耳と鼻の中に沢山水が入ってきて、その時の嫌な思いが忘れられなくなってるのさ、それでシャワーの音を聞くと、その時のことを思い出して怖がっていた。さっきだって、あんなにジャブジャブ水をアズに掛けられて小太郎は参ってたよ。」
「だってあんなに暴れられたら、そうするほかなかったんだもの。」
 フレディーはゆっくりと首を横に振った。
「それ以外の方法はいくらでもあったさ。オーナーが小太郎を洗うときは耳栓をして、耳に水が入らないようにしていたし、顔なんかを洗うときは、あそこにおいてあるスポンジをつかっていたぜ。無理をしないでゆっくりするんだ。その時、小太郎は凄くおとなしく洗われていたよ。」
 私はフレディーの鼻先で指す方向を見た。そこにはフレディーの言う通り、スポンジと洗面器が置いてあった、そして耳栓用に使う綿も・・・。
 確かに学校で暴れる犬の顔を洗うときはスポンジなどを使って直接シャワーを顔にかけるなんて事はしていなかった。シャワーの音を怖がる犬にはシャワーヘッドを手の平で覆ったり、水がはねないように犬の体に直接シャワーヘッドを押し当てて洗うといいことを教わっていた。学校を卒業してからはずっと〝自分がしなければいけないこと〟そればかり・・・。いいえ、それしか考えていなかった。   
そんな自分に、ハッとした。
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