水色のエプロン
〝犬の気持ちも考えなさい〟
 時折、店長に注意されていた言葉がふと頭の中を過ぎった。
「そうか、店長の言葉にはそんな意味が込められていたんだわ。」
 自分がやらなければいけないこと、そればかりを人に押し付けてはいけない。そんなの必ずどちらかが嫌な思いをしたり、我慢をしなきゃいけなくなるから・・・。人間の付き合いですら同じこと。そんな簡単なことに私は気付いていなかった。
 犬の美容師であるって言うのに・・・・。そんなんじゃ私はプロ失格だわ・・・。
 自分自身に落胆した。
「もしかしたらキャディーも過去になにかトラウマが?」
 するとその言葉にフレディーが答えた。
「そうさ、キャンディーも一番最初に通っていたペットサロンで爪切りをされたときに、深爪をされて、爪きりが全部痛いことなんだって、どこかで思い込んでいるんだ。オイラ達犬は、人間みたいに本を読んだり、人づてに聞いたことによって勉強することはできない。だから生まれてこの方、自分が経験したこと、感じたこと。つまり記憶と感覚を元に生きているのさ・・・。一度痛い思いや怖い思いをしたらそれをずっと引きずってしまう。記憶と感覚、それがオイラたちの命を司っているんだ。だから無理に何でもやろうとすることはできないんだ。」
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