水色のエプロン
「記憶が・・・?でも記憶を元に戻すことなんかできないし、忘れられないことを、無理やり思い出さないことだってできやしないじゃない。一体どうすればいいの?」
「それは、アズが心から誓うことさ。痛い思いはさせないって。心から思ってくれれば、オイラ達はそれを感じる、そしてアズを信じることができるから・・・。」
 信じるって言葉が胸に染み渡った。
「でも。誓うってどうすればいいの?」
「あとの難しい問題はオイラにはわからない。いい天気だからオイラは庭で昼寝をしてくるよ。」
 そう言ってフレディーはトリミング室を後にした。
「ちょっと、フレディー行かないでよ!」
 引きとめようとしたけれど、気まぐれなフレディーは外へと出て行ってしまった。
「やらなきゃいけないって、そればっかり思ってた。犬の気持ちなんか全然考えていなかった・・・。」
 フレディーの言葉は私の心にふかく刺さった。犬にも感情はある、私達トリマーはぬいぐるみを綺麗にするわけじゃない、命のある動物を綺麗にしなきゃいけないんだ。
なんだかとても大切なことを再認識したような気がした。
「難しいけど、なんだか少しわかったような気がする。ありがとうフレディー。」
 私はキャンディーの小さな黒い瞳を見つめゆっくりと静にその手を取った。
「キャンディー、私あなたに絶対痛い思いなんて、させたりはしないわ。お願い私を信じて・・・。」
 私は心からそう誓った。ゆっくりとキャンディーの頭をなで、優しく前の脚を手の平に乗せた。そして力任せにするのではなく、ゆっくりと少しずつ・・・。するとキャンディーの前肢に掛かった力がゆっくりと抜けていった。私は静にキャンディーの爪を切った。
「いい子だねキャンディー、痛くないでしょ?」
 爪を切られている犬の気持ちになって・・・。
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