水色のエプロン
「やればできるじゃないか。」
 振り向くとカウンターの裏から顔を出したフレディーがこちらを見つめていた。
「フレディー。ありがとう。あなたが大事なことを教えてくれたおかげよ。あなたが教えてくれなければ私はキャンディーの爪切りを力ずくで終わらせようとして、今までと何も変わらなかったはずだもの・・・。」
「オイラはなにもしていないさ。本当のことを話しただけだからね。それより、今日は、まだ終わりじゃないんだぜ。」
 フレディーの言葉にはっとした。
「そうだわ!これからもう一頭ミックス犬の野崎ロビンが二時から来るんだったわ。」
 私は時計を仰ぎ見た。
「やだ!もう一時五十分!もうすぐ来ちゃうわ。」
 トリミング室に落ちたキャンディーの毛を掃いて。シャンプーを継ぎ足し、次のトリミングに、スムーズに入れるように準備を整えた。
「そうだわロビンのカルテにも目を通しておかなくっちゃ。
野崎ロビンちゃん、予約表にはMIXと書いてあった。
「一体どんなワンちゃんなんだろう。」
カルテにも犬種はMIXとしか書いてはおらず、その犬の特徴はなにも書いてはいなかった。予約の電話や新規のお客さんが来る時に、いつも心配になるのがMIX犬だった。もちろんMIX犬にはスタンダードがない、だから大きさも毛並みもさまざまで、実物を見てみなければ実際どのくらいの時間で仕上げることが出来るのか、どんなカットをしたら似合うのか、それを見極めるのがとても難しかった。
 だけど、とにかく野崎ロビンちゃんの注文を見た限りでは今まで一度もカットをした記録がないので、私はロビンちゃんが短毛の犬なのだろうという想像を立てた。
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