水色のエプロン
「もう家にもって帰って読んだらどうだ?もうそろそろ、オイラの散歩の時間だぞ。それに晩ご飯も・・・。」
 忘れるところだった。私はまだ仕事中なんだった。気がつくと太陽が少し西に傾き、オレンジ掛かった日の光を窓から差し込んでいた。
「まぶしい。」
 窓から顔を出してみると、房総半島の海にきらめく夕日の光がキラキラと輝いていた。
「何て綺麗なんだろう。凄く綺麗よフレディー。」
 フレディーのほうを振り向くと、そんなこともう、ずっと前から知っているよって顔をして言った。
「オイラはそこの屋根に乗ってこの景色を見るのが好きなんだ。世界を独り占めしてる気分になれるから。」
 私は大きく深呼吸をして頷いた。
「本当ね。この世界、私たちだけの物みたい。」


 階段を下り、トリミング室の掃除、店内の掃除を済ませ。フレディーを散歩に連れ出した。
「もうすぐ夏がくるんだな。オイラは暑いのが苦手だから・・・。」
 私の一歩前を歩きながらフレディーがそうつぶやいた。
「確かに、サモエドの原産国はロシアだものね。寒い国ってイメージがあるわ。確か、サモエドの歴史はロシアのツンドラ気候地帯で暮らす、サモエド族のもと、トナカイの番やカモシカ狩り、そり引きなどを業としていた犬だって犬種図鑑に記されていた。ツンドラ気候が原産地の犬種だけあって、極寒に耐えるのに適した皮下脂肪と豊富な体毛を備えていて、寒冷地、つまり北海道や東日本の山間部などでの飼育には非常に適しているけど、熱帯から亜熱帯地域や、夏季に猛暑となる、日本の半分以上を占める地域での飼育は、体調管理上好ましくない・・・。とも書いてあった。その毛皮を真夏も着たままだって思うと確かになんだかかわいそう・・・。」
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