水色のエプロン
「ねぇ、ポアロ、ポアロはどんな感じのカットが好き?」
「どんなカットって?」
「鏡で自分を見たときに、どんな髪型をしてるときが好き?かわいい感じとか、きりっとしてカッコいい感じとか。」
 ポアロは、まだ顔のセットをしていない、ぼさぼさのアイブローの隙間から、自分の顔を鏡越しにじっと見つめた。ウイスカーだって山奥に住んでいる仙人みたいにぼさぼさだった。
 そして小さく首を振ると。
「こんなぼさぼさ嫌だ。カッコよくって、強そうな顔が好き。」
 カルテには、ウイスカーもアイブローも短めでかわいいカットと書いてあった。これは飼い主さんの趣味で、飼い主さんの注文。
「ポアロのママは可愛らしいお顔が好き見たいよ。」
「だけど、僕はカッコいいのが好きなんだ。」
 ノートの書き込みを見ると。何故シュナウザーのカットがこのように進化したのかが書き込まれていた。
シュナウザーの元々の役割は、農場のネズミ捕りをする犬種だった。ネズミの反撃から目や顔を守る為に、シュナウザーカットが産まれたのだ。
 1933年にスタンダードシュナウザーとミニチュアシュナウザーは別々に認められるようになった。
ドイツ語で髭のことをシュナウツといい、ミニチュアシュナウザーの名前はここからきている。
 長く伸ばした眉毛と、ひげに見える口周りの被毛が特徴。

 このノートを隅々まで見れば見るほど、書いた人の知識とトリミングに対する情熱、そして一つのことに深く打ち込む熱意と感情が伝わってきた。何かを深く追求することは答えを見つけることなのだと教えてくれたようなきがした。
「そうだ。今回は一回だけ試しに理想的なスタンダードのシュナウザーのカットをしてみましょ。ここに書き込まれたことを参考にして。ポアロがしてみたかったカッコいいお顔にして見ましょうよ。」
 私はそう言って、ポアロのアイブローを持ち上げ、黒くクリッとしたポアロの瞳を覗き込んだ。
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