水色のエプロン
「ポアロ、どう?」
 私は完成したポアロの姿を鏡に映して見せた。
「はっ・・・・。僕だ・・・。」
 するとポアロは息を呑んだ。まるで何処かの有名人に出会って驚く坊やみたいに。 
「そうよ、ポアロよ。どう?このスタイル。」
 するとポアロはまるで自分がショードッグになってしまったかのようにポーズを決めてこう言った。
「僕は本当にハンサムだ。」
 自分がカットした張本人、いいえ、張本犬に、自分のカットを喜んでもらえたことが夢のように嬉しかった。すでに犬と言葉が話せるなんてそれだけで夢のような世界の中に、私はいたようなものだったけど。
「フレディーみて!」
 私は庭に届く声でフレディーを呼んだ。すると昼寝の途中だったフレディーは寝ぼけ眼でトリミング室に顔を覗かせた。
「やぁ、オイラ、フレディーってんだ。よろしくな。」
「フレディー僕だよ。ポアロだよ。」
 なんと、常連のお客様のポアロをフレディーは初対面の犬だと見間違えたのだ。
「やだ、フレディーったら。」
 私たちは笑った。まるで本当の友達同士みたいに。犬だとか、人間だとか、そんなことは何一つ関係ない事だった。今私たちが一緒に生きていること、心を通わせること、不思議なことだけど、実はそれが当たり前の現実だった

「ママがお迎えに来るのが待ち遠しいわね。」

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