水色のエプロン
「わかってる。ちゃんと聞こえてるよ。」
 佐々木さんの目を見つめながら、ポアロは一心にそう言っていた。
「お家に帰ったらご褒美におやつをあげますからね。」

 佐々木さんは笑顔でお店を後にした。全ての人と、ワンちゃんとが言葉で繋がれたら世界はもっと素敵になれるのに。私は心のどこかで、ちょっとそんなふうに感じていた。

「うまくトリミングができたからって、余韻に浸ってる暇なんかないんだぜ。マーフィーがお待ちかねなんだからね。」
 カウンターの裏から私たちのやり取りを見ていたフレディーが言った。私はその言葉で我に返った。
「そうだった。だけど、家にはネオって言うマルチーズがいるの。だから他のワンちゃんより私マルチーズのペットカットは得意な方なんだから。」
「そんじゃ、お手並み拝見いたしますかな。」
 フレディーはアメリカのアニメに出てくるキャラクターみたいにこめかみを動かして見せた。
「臨むところよ。」
 私は腕を組みそんなフレディーを見下ろした。
 マルチーズのチャームポイントはなんと言っても純白の真っ白い被毛、その中に真っ黒な二つの目と鼻。まるでぬいぐるみのような愛らしさ。
「マーフイー。」
 私はマーフィーの名前を呼んでゲージを覗き込んだ。
「ぼさぼさで何処に目があるのかもわからないぐらい毛が伸びちゃってるわね。」
 カルテを手にとって見ると。前回のトリミングから二ヶ月もたっていた。
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