水色のエプロン
「そんな、だって梓はトリマーになるんでしょ?」
 確かに、私はトリマーを目指している。だけど私の両親は家で動物を飼う事には反対をしていた。両親はもともと、動物が嫌いなわけではなかったけど、その動物が死んでしまったとき別れをするのは辛いから、そう言って犬や猫を飼わせてもらったことは、今まで一度もなかったのだ。
「トリマーを目指してることは事実だけど、家で犬を飼うのは親にずっと反対されてるから。」
 そうは言ったものの、心の中では美枝の話の続きが気になっていた。
「でも美枝、何処で犬を拾ったの?」
「学校の帰り道だよ。横断歩道で信号待ちをしていたら、雨の中びしょびしょに濡れたこの犬が、電信柱の下に座り込んでたの。なんだか凄く可愛そうになっちゃって・・・。この子震えてるの。」
 そう言って美枝は黙り込んだ。
「今何処にいるの?私も今からそこへ行くから。」
 何も考えずに私はそう言ってしまっていた。
「それじゃぁ、この犬隠したままバスに乗って第三中学の前のバス停まで行くからそこで会おう。」
「解った。」
 電話を切った私は傘を差しバス停へ向かった。梅雨明け前の雨は、じめじめとしていて、とても湿度が高く感じた。
 私がバス停に付くのとほぼ同時に、タイミングよく美枝の乗ったバスが到着した。
 コスモスのように鮮やかな紫色の傘がパッと開いた。美枝は昔から紫が好きだった。私はその傘の主が美枝だとすぐにわかった。
「美枝。」
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