君ノ声
訳が分からねぇ…
恐くないはずなんてなかった。
いかにも〝悪〟で固められた俺に、平常心で近寄ってくる女なんて存在するはずがなかった。
震えを押さえるために握られたその拳に、一体何の意味がある?
この調子だと最初から――――目が合ったあの時から恐怖してたに違いない。
なぜ話しかけた?
結局はまたこの質問に巻き戻った。
目が合ったすぐにでも逸らせばよかったものの、女は俺を見続けた。
その理由がやっぱりいくら考えても分からない。
俺に話しかけて得することなんて確実にない。
むしろ損をする方が多いだろう。
変わっている奴だと思った。
それが故に、このおかしな行動をする女に少し興味を抱いた。