君ノ声
お互い口を閉じたまま、暫し睨み合いの時間が続く。
このおかしな女のせいで調子が狂う。
ムシムシと暑苦しい、肌を刺すような直射日光だったり、ベットリと汗で張り付くワイシャツだったり、苛立ちを増幅させる物事が多すぎる。
なにより苛立ちの根源は眼前の女だ。
俺は1つため息を落とすと、眼前の女を避けて保健室へと向かおうと前に足を踏み出した。
「………、」
けれどそういかなかったのは、俺が置くはずだったところに女の足が置かれたからだ。
下に落としていた視線をゆっくりと上に上げていく。
女はずっと俺を見ていて、完全に視線を上げた瞬間、視線がバチリと合わさった。
俺は小さく舌打ちをして、眼前で手を左右真横に伸ばしてとおせんぼをする女の腕を掴むと、横にどかそうと力を込める。
けれどそう簡単に女はその場所から動こうとはせず、むしろ両足を地面に縫いつけたように微動だにしない。
パクパクと酸素を求めるように、さっきとは違った、必死な表情で再び口の開閉を始める女。
それだけじゃ伝わらないと悟ったのか、首を左右にブンブン振り出した。
…いい加減にしてくれ。